経営の大改革を成功させた発泡スチロール加工メーカーの挑戦
兵庫県宍粟市に本社・工場のある栗山化成工業所は、高度経済成長を通じて、発泡スチロール成形加工メーカーとして経営を拡大してきた老舗企業。3年ほど前から新たな経営戦略として選んだ針路は、ダウンサイズの成長戦略。時代にあったホームページ(HP)の活用方法や営業方針、地域との関わり方などを栗山章社長に聞いた。
老舗企業が抱える経営課題
──歴史を教えてください。
栗山 先代の父が創業したのは昭和39年。第二次世界大戦で満州に派兵され、終戦後4年のシベリア抑留を経て帰国した父が始めた会社です。昭和30年代前半に発泡スチロールが使われはじめた時代背景と、周囲からの勧めによって発泡スチロール成形・加工をこの地で始めたのが創業の経緯と聞いています。創業直後は高度経済成長の追い風もあり、発泡スチロールは緩衝材として贈答品の箱や、鮮魚輸送時の保冷のための容器などあらゆるところで使われるようになりました。その後も、家電の緩衝材など用途は広がり、経営規模も拡大の一途を辿ることとなります。
我々が商品を売り込みに行く必要はほとんどなく、依頼が次々と舞い込むような経営環境でした。
──最近はいかがですか。
栗山 先代から経営を引き継いでからも、お客さまからの相談やご依頼はありがたいことに多くありました。基本的に依頼された仕事は断らなかったため、緩衝材や容器だけでなく、ロボットトレーや楽器ケースのような極低倍発泡成型品、建築用資材など手がけてきた製品は多岐にわたります。
しかし、依然として売り上げのウエイトを占めていたのは鮮魚など水産食品の発泡スチロール容器でした。発注から生産、納品までの期間が短く、価格も外国製品に押されて安い製品でもあり、薄利多売。経営効率の悪い分野でもありました。
お客さまからの急な注文にも対応するために、生産設備を急きょ稼働させることもしばしば。担当部門の従業員に残業をお願いすることも多く、人件費・生産コストも決して効率的とはいえませんでした。単価とサービス・生産コストのバランスを考えれば、売り上げは大きかったものの、赤字部門となってしまっていたのです。
効率重視で部門を集約
──3年ほど前から、食品容器の生産部門をなくしたのだとか。
栗山 経営効率が悪い部門を思い切って切り離そうと決断しました。容器や緩衝材は発泡スチロール以外の素材も使われるようになっていたので、将来の需要を考えても、あえて赤字部門に固執する必要はないと感じたからです。
──最大の売り上げ部門を削減することに迷いはありましたか。
栗山 迷うところはありました。縮小することで、売り上げ規模は3分の1になる試算でしたからね。同じタイミングで、環境に配慮して燃料を重油からガスに変えるための設備投資を行ったのですが、経営をダウンサイジングするなかでの融資は、簡単ではありませんでした。顧問の税理士法人稲田会計さんにも協力していただき、何度も事業計画書を練り、利益率を高めるためのプランを多方面の方のお力をいただきながら交渉していきました。また、生産部門で働いてくれていた従業員の皆さんに退職をお願いするなど、身を切るような想いもたくさんしました。
──融資がおりた決め手は?
栗山 経営効率の悪い部門を削減することで、企業としての持続可能性は高まるということをしっかりと説明できたのが大きかったと考えています。もちろん、銀行担当者の方の理解や、削減したい事業部門をお客さまの関連会社に事業譲渡できたなど、運の良さはあったかもしれませんが。
──大改革によって、会社がいい方向に変わったと感じていますか。
栗山 もちろんです。まず、社内の雰囲気が明るくなりました。従業員にも残業など無理をお願いすることが減り、気持ちよく働いて貰える環境になりました。また、技術力が求められる製品づくりの依頼に注力できるようになっています。薄利多売なレッドオーシャンではなく、当社にしかできないブルーオーシャンな領域を作っていく方向にシフトできたという点でも、選択は間違っていなかったと感じています。
HPから新分野を受注
──持続可能な経営を、という視点でHPも整備されたのですか。
栗山 お客さまとダイレクトにつながることができるチャネルとして、HPは有効です。当社もこれまでは問屋さんを挟んで、エンドユーザーに商品をお届けしていました。しかし、これからの時代は生産者が顧客からの要望に応えて、直接商品やサービスを届ける時代です。ユーザーの声を直接聞き、商品開発や生産に生かすことができれば、新たな世界が広がっていくのではないかと感じています。
──HPからの問い合わせはありますか。
栗山 これまでお付き合いのなかった業界からのご相談も増えました。百貨店のディスプレイなど、当社の技術力を生かした新たなものづくりの試みとして注文をいただいたケースもあります。時代に合わせた新たなニーズはお客さまの声から生まれます。コンパクトな経営で利益率の高い企業を目指すためにも、HPから生まれる出会いには期待しています。
──今後の経営ビジョンは?
栗山 お客さまや従業員、そして地域の方から喜ばれる会社を目指しています。少人数体制で利益率の高い企業を作り、今の時代にあった働き方を整えるための改革は、まさにこのビジョンに向けての取り組みです。〝早く・安く〟という経営戦略は、大量生産できる大手企業の戦略としては正しいかもしれません。一方で、当社のような規模感の会社なら、また違った道があるはずです。事業の見直しや、設備投資、働き方改革、そしてHPの開設。すべては当社の理念である「全従業員の幸福の追求」「利他の精神を発揮した、日本を良くする経営」につながっています。
この度は取材にご協力いただきまして、ありがとうございました。
株式会社 栗山化成工業所
住所:兵庫県宍粟市山崎町青木717
TEL:0790-62-0871
URL:https://www.kuriyamakasei.com/
(インタビュー・構成/アイ・モバイル 株式会社)
株式会社TKC発行のビジネス情報誌「戦略経営者」に掲載された連載記事を掲載しております。
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